昔話

新しいマンションの鍵を貰った。
鍵は好き。ベタだけどいいモチーフだ。

複製にはいちまんえん掛かるから、失くさないように、と念を押された。
いまどきの鍵はそんなにフクザツに出来ているのか。

自分が最後に鍵を失くしたのはいつだったか、私はすでに思い出せないけれど、子どもというのは往々にして家の鍵を失くしてしまう生き物だろう。現代の親はたいへんだと思った。


そういえば昔、たぶん小学校は低学年のころ、みんなの溜まり場だった近所の公園でカメラのお兄さんと仲良くなったことがあった。
お兄さんはよく私たちの写真を撮ったし、遊び終わったゲームソフトをくれたりもした。
私は悪魔城ドラキュラを貰った。
当然お兄さんは、子どもたちから人気を集めていた。

ある日お兄さんが、ぼくは最近鍵の写真を撮っているんだ、みんなのお家の鍵を撮らせてほしいと言った。
みんな首からぶら下げた、自分の家の鍵をお兄さんに晒した。お兄さんは写真を撮った。

私は少し警戒していた。
無邪気を装って、でも結局最後まで、自分の鍵をお兄さんには見せなかった。

その後親にお兄さんのことを話したら、危ないから付き合いをやめなさいと言われた。
私は何もそこまでするつもりはなかったのだけど、結局後日お兄さんと一緒にいるところを見つかってしまって、それでそれきりお兄さんには会いに行かなくなった。

少しして、その後もお兄さんと交流のあったらしい友だち伝てでお兄さんの撮った私の写真をもらった。
当時の私には馴染みのない、大きな版の白黒写真だった。

でもそれは、なんとなく気持ちのわるいような気がして、悪魔城のソフトといっしょにコッソリ捨ててしまった。
ような、気がする。


あのお兄さん、結局ただのカメラのお兄さんだったのかな?
いまでもたまに気にしているけど、もう、わからないんだなー。